福嗣クン

週刊文春より、福嗣クンの手記

僕も野球をやっていて、一塁手でした。三冠王の子供だからというだけで、
「何でお前は、三冠王なのに打てないんだよ」
などとよく言われた。
僕が三冠王を取ったわけじゃない、自分は自分なのに…と思うわけです。
中学時代に地元のクラブチームでイジメに遭っていた頃、父と二人きりで話したことがありました。その時、父は言ったのです。
「イジメる奴らは、そういう奴らだと思っとけぱいいんだよ。(卒業まで)あと一年かそこらの辛抱だろう。我慢しな。そういう連中とは付き合わなくなるんだから…」
父は秋田工業高校のとき、野球部を七回退部しています。試合で困ったときだけ、助っ人に駆り出され
る。その頃の父は上手すぎて、死ぬほど殴られたそうです。僕は、下手すぎてイジメられましたけどね
(笑)。その話を聞かせてもらった時、「この人は偉いなあ」と思いました。
母は逆に、我慢しないタイプです。僕も我慢するのは嫌です。そう言うと、父はこう呟きました。
「お前は、母ちゃんに似てるなあ…」
高校二年生で登校拒否になりました。普通の親と違って、ウチはすげえなあと思ったのはその時です。普通だったら体裁が大事だから「学校に行きなさい」としか言わないでしょう。
でも母は、
「いいよ、学校行かなくても。でもね、お父さんが二階で寝てるんだからね。ちゃんと制服着てさ、一度は『行って参ります』と声を出して、家から出かけなさい。近くに公園があるでしょ」
「十六歳の僕の気持ちがわかるか!」
と叫んだ時など、
「五十八歳のお母さんの気持ちが、お前に分かるのか!?」
と怒鳴り返されました。
「お父さんの籍から抜いてあげようか?」
と言われたことも…。
シーズンオフには、家族で映画を観に行きます。父は自分で映画館に電話して場所を訊き、食事はどこでとるかまで、全部その日の日程を決めます。朝から僕らと一緒に、映画館の階段で順番待ちしてくれる。他のお客さんがチラチラ見にきますけど、お構いなし。
意外に思われるかもしれませんが、『犬夜叉』や『ガンダム』など子供のアニメまで一緒に見るんです。母に言わせれぱ、今の若い選手たちの気持ちを分かるのに役立っている面もあるのだそうです。
父は、やっぱり野球が好きというしかない。ご飯を食べていても、野球のことを考えてる。そんな時はすぐ分かる。箸の運びが違うんです。現役時代の父は、練習しないって言われた。でも真
夜中に、ブルーン、ブルンという犬きな虫が飛ぶような音で起こされたことがあります。庭に出てみると、手拭いを首に巻いた父がパットを振っていました。
監督になってからも、色々と批判的なことが書かれます。でも僕は、最後の最後まで、お父さんの味k方。なぜって監督の仕事は、きっと外からでは想像もできないストレスがある。母や僕は疲れて帰ってくる父に、安息の場所を作ってあげなきゃいけないと思います。
落ちるだけ落ちたからこそ、現在の自分があると思う。「あーっ、俺は普通の人間なんだ」と、いまは思えるようになりました。

今春から大学生になる福嗣クン。結構マジメな文ですが、金持ちの親、登校拒否、アニメ好きと王道を驀進しているように思うのは、気のせいでしょうか。
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